彼女の死に対する私のアカウント

(※今回は読書レビューではありません)

会社の元同期、Hの訃報を受けた。
彼女が退職したのは8年前。
それから、私は彼女と会っていなかったし、連絡も取っていなかった。

Hは過激さと繊細さ、大胆さと冷静さを併せ持つ、おもしろい女性だった。
関西女そのままの勢いで、なんでも思い立ったら即疾走してゆく。
しかしアホではなく、すごく知的だ。

入社してすぐ、H含めた同期入社の女性5人でバンドを組んだ。
というか、Hがみんなに声をかけて、同期バンドが結成されのだ。
私はギター、Hはドラム。

Hは音楽の才能もそこらの音楽通よりはるかに高いレベルで、
私のしょぼいギタープレイに「そこのリズム、まちがってんで」と突っ込みをいれ、
私のギターを奪ってお手本を弾いてしまうほどだった。

姉御肌のHは、ライブの予定を入れてきたり、コンテストに応募したりして、
すっかり彼女のペースでモノゴトが運んでいた。
バンド名は、そんなHのおかんぶりを象徴するものになった。
すなわち「BIG MAMA」と。

入社1~2年目の私たちは全員仕事に忙殺されていて、
深夜業務や休日出勤は当たり前だったが、
その中でもライブ直前にはオールナイトのスタジオ練習を入れた。

真夏の明け方、オールナイト練習で疲れた身体をひきずり、朝埃の舞うアスファルトを歩き、
ひと休みしにボーカルのMのワンルームマンションに全員で転がり込むと、
Mの家はなんと電気が止められていた(忙しすぎて支払う暇がなかったのだ)。
エアコンが効かない部屋で、汗だくになって、文句を言いながら、笑いながら、雑魚寝した。

ライブは楽しかった。
まだ小さかった会社の全員参加の社員旅行。
南十字星が見える小浜島のリゾート「はいむるぶし」の野外スタジオで、
浴衣の袖や裾をまくりあげて、ピョンピョン飛び跳ねながら「レモンティー」を演った。
アンコールの喚声がやまず、持ち曲のない私たちは、仕方なくもう一回「レモンティー」を演った。

会社は大阪から東京に本社を移した。
Hを除いた4人は順番に東京勤務となり、大阪を離れた。
でも、Hは大阪を離れなかった。

大阪に残るという選択は、職種の限定を意味する。
企画や営業などの中枢機能は、すべて東京に移ってしまうからだ。
彼女はそれでも大阪に残り、そして数年後に退職した。

Hが退職することは、誰からともなく聞いたが、本人からは聞かなかったような気がする。
大阪に残る選択をした彼女なりの理由あるのだろうと思った。
それから私は、Hと連絡を取らなくなった。

訃報は突然だった。
しかも亡くなってから2ヶ月も経っていた。
昨年末にガンが見つかり、6月に他界したと。
何のガンかはわからない。

こうやって書いていてようやく、実感として身に染みてくる。
Hとはもう会えないのだ。
いや、私は8年前から会っていなかった。
この先も会わなかったかもしれない。
私は彼女とどうしようと思っていたというのだ。
何かお悔やみのような言葉を口にする権利が、私にあるような気がしない。
それが情けない。

あんなに濃密で猥雑な時間を過ごしあった仲間なのに、
それをそのままにしてしまったのだ。

しかしまた、生前に私が病気のことを知ったからとて、
私は何か彼女の気持ちに寄り添うようなことができただろうか。
きっとできなかっただろう。
私は当事者にも、その家族にも、なったことがないのだ。

先日読んだ、飯島直樹さんの「ガンに生かされて」という本の中で、
「どんなに美しい言葉を送っても、その言葉にあなた自身が助けられた経験がなければ、相手の心に決して届きません」という下りがあった。
ほんとうに、そのとおりなのだろうと思う。
自分が想像して、何かそれらしいことばや振る舞いをしても、
決してその人の心には寄り添えない。

彼女の肉親は、彼女の病名も、どこに眠っているかも、ごく一部の人以外には伝えていないそうだ。
もちろん、わたしも知らない。
彼女に対する8年間のわたしの態度に、ふさわしいと思う。

彼女のお墓参りをしないわたしに、いつか彼女を送りだせる日は来るのだろうか。

広告
  1. トラックバックはまだありません。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。