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池谷 裕二「単純な脳、複雑な「私」」 ★★★★★

池谷 裕二「単純な脳、複雑な「私」」

きっかけ=piyoにお借りして。

本当はもっと前に読み終わっていたのですが、なかなか自分で納得できるレビューをかけないまま時間が過ぎてゆき・・・もう納得はあきらめて掲載します。
久々に、★5つの本と出会えました。



この前に読んだ「進化しすぎた脳」は、著者がNY留学中に、NY在住の日本人高校生を相手に連続講義をした講義録でしたが、本書は著者が帰国し、「あのような講義を日本でもやってみたい。それも出身高校で!」という著者自身の提案を実現したもの、だそうです。

今回、池谷氏の著書を3冊続けて読みましたが、本書が一番読み応えありました。(もしかすると3冊目だったので自分が慣れただけかもしれませんが・・・)
副題に「または、自分を使いまわしながら進化した脳をめぐる4つの講義」とありますが、この「自分を使いまわしながら」という点が非常におもしろく、「そうだったのか!」と「そりゃそうだ!」という気持ちが混ざったような感想でした。


どういうことかといいますと・・・
我々の脳は、生物として進化する過程において、この場合はこう認識してこう動いた方がよさそう、ということを繰り返して、今の認識・行動になっている、ということです。

つまり、今私たちが「見える=そのように存在している」と思っているものは、それが絶対的な存在のあり方ではなく、人間なら2つの目が、顔のこの位置にこういう構造でくっついていて、過去こういう風に識別するとうまく行動できた(敵から逃げられた、食物を獲得できた)から、このように見えるだけであって、これが4原色の昆虫だとまったく違う景色であり、まして超音波を認知しているコウモリにはどんな風に世界が感じられるだろう、ということです。
だから、「逆さメガネ」をかけると、最初は気持ち悪くて何もできなくても、1カ月もすればまったく問題なく日常生活を送れるようになる。

「僕らにとって、『正しい』という感覚を生み出すのは、単に『どれだけその世界に長くいたか』ということだけなんだ」
「もし自分の個人的な価値基準を、正誤の基準だと勘違いしちゃうと、それはいわゆる『差別』を生んでしまう。残念ながら、人間って自分の感じる世界を無条件に「正しい」と思いがちだよね。この癖には慎重に対処しないといけない。そう、謙虚にならないと。」(p.111)

サラリとおっしゃっていますが、ものすごく心に響く一言です。
さらにこの後、氏は自分が小1のときに描いた、日本だけが異常に大きく詳細に描かれた世界地図を取りだし、これは我々のモノゴトの捉え方とまったく同じだと喝破している。

「こうやって自分の知っていることを通じて世界が歪められている。」
「こういうのって、子どもの絵だから何だかおかしいけど、でも、よく思い返してみれば、僕らの大人の心だって、これと大差ない。」(p.118)

さらに続けて、「『正しい』は『好き』の言い換えにすぎない」という見出しになります。もう膝を打つしかないです。

「もう一歩踏み込んで言えば、『正しい』というのは、『それが自分にとって心地いい』かどうかなんだよね。」
「実際、普段の生活の中で、誰かに対して『それは間違ってるよ』と偉そうに注意するときって、その『間違ってる』を、『おれはその態度が嫌いだ』と言い換えても意味は同じだよね。」(p.120)

これを言われた高校生は、どう思ったでしょうね。
私が高校生だったら、そんなことはない、世の中にはやはり正義も悪もあり、間違っているものは間違っている、と思ったと思います(笑)
すぐ納得できる高校生がいたら怖いです。



これ、まだ前半部分です。
一番おもしろいのは第四章「脳はノイズから生命を生み出す」です。
泣きたいくらい、人間という存在が歪(いびつ)で支離滅裂であり、しかしその歪さ、支離滅裂さが、弱いシグナルを増発させたり、爆発的なエネルギー源になったりする、ということが解き明かされます。
本書の頁端にその歪さ(ノイズ)が想定外の結果を生むことがわかるパラパラマンガがあり、これも秀逸なプレゼンテーションです。


第四章の素晴らしさをお伝えするには私の筆が追いつかないのですが、本当に素晴らしい。
自分の脳みそが拓かれていく感じがします。脳みその解説を読んで脳みそが拓かれる(笑)


「おわりに」で、筆者は「今回のこの本は、私が出してきたすべての本の中で、いま一番思い入れがあって、そして、一番好きな本であることを、正直に告白したいと思います」と記しています。
確かに、本書には何やら奇跡的な輝きと躍動感がある、と感じました。

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近藤 史恵「サクリファイス (新潮文庫)」 ★★★★★

近藤 史恵「サクリファイス (新潮文庫)」

きっかけ=友人Hちゃんに借りて。

星5つの最高ランク。
自転車ロードレースの特異な「アシスト」というシステムをモチーフに、自己犠牲によって解放される自分の発見、その成長が描かれている。

ミステリー要素もあり、主人公をはじめ登場人物の一人一人が魅力的で、一気に読ませる。

桐野 夏生「柔らかな頬〈上〉〈下〉 (文春文庫)」 ★★★★★

桐野 夏生「柔らかな頬〈上〉 (文春文庫)」

桐野 夏生「柔らかな頬〈下〉 (文春文庫)」

きっかけ=中古本屋さんでなんとなく購入。

最高ランクの★5つだが、もうひとつ★をつけたいくらい引きこまれた。

内容(「BOOK」データベースより)
カスミは、故郷・北海道を捨てた。が、皮肉にも、北海道で幼い娘が謎の失踪を遂げる。罪悪感に苦しむカスミ。実は、夫の友人・石山に招かれた別荘で、カスミと石山は家族の目を盗み、逢引きを重ねていたのだ。カスミは一人、娘を探し続ける。4年後、元刑事の内海が再捜査を申し出るまでは。話題の直木賞受賞作ついに文庫化。

娘の失踪と不倫の情事には因果関係がない。が、カスミは贖罪のために探し続ける。
それがエゴであり贖罪になりえないことはカスミ自身もわかっている。
娘が見つからないのは当然だが、カスミは誰かからの断罪を求めて狂気的に探し続ける。

救いのない結末。
肌にベタベタと触られるような現実感と虚構が混ざった見事な筆致。
読了後も突き放された気持ち悪さが残る。

そういうのが好きな人には激しくオススメしますが、結末に希望がある方が好きな人は、読まない方がよいです。