中野 京子「名画と読むイエス・キリストの物語」 ★★★☆☆
きっかけ=たまたま本屋さんで見かけて、よさそうな気がして購入。
かつて通っていたキリスト教系の大学は、キリスト教について学ぶことが重要視されており、4年間の必修キリスト教学で聖書(旧約・新約)をひととおり学ぶことができました。でも、聖書に出てくる話は、断片的には知っていても、つながりを忘れてしまったり、すっかり忘れていることも多くて、改めて読んでみたいなあと思っていました。
本書は「名画と読む」と題されているように、目的が聖書の解釈を深めることではなくて、ヨーロッパの宗教画をより楽しみましょう、ということです。明快ですね~!こんな風に、誰それさんの解釈ではなく、スルリとそのままの物語を読めるものは、案外とありません。入門者向けのものになると、なぜかデアゴスティーニ風のカラーチャートや図解になって、見開き2ページでひとつのテーマごとに解説する、というスタイルになってしまうのはなぜなんでしょう。
「はじめに」で、本書の意図を説明し、地図をもとにイスラエルの風土、歴史、ユダヤ教、受難、当時の支配はローマ帝国であることなどの時代背景をサラリと説明したあとは、第一章はきっちり「受胎告知」から始まります。乙女マリアのもとに天使ガブリエルが舞い降り、彼女が神の子を身ごもったことを厳かに告げる。この「受胎告知」は、四つの福音書の中でもルカによる福音書にしか記述がないはずです。聖書にはあちらには記述があってもこちらにはない、または矛盾したことが書かれている、というものが数多くありますが、それらすべてを真実とするのがキリスト教なので、色々な解釈も生まれます。しかし、本書はそういう難しいことは横に置いて、とにかく聖書に記述があることで絵画のテーマになっていることを、流れに沿って淡々と物語ってゆく、というスタイルをとっています。
取り上げられている絵画はフラ・アンジェリコ「受胎告知」、ティツィアーノ「悔悛するマグダラのマリア」など、一度はどこかで見たことのある作品。欲を言えば、この絵画のサイズが小さいものも多かったので、ページいっぱいに掲載してほしかったかなーと。といっても普通の書籍サイズなので、大きくしてもそこまでですが。ま、ちゃんと見たい人は画集で見てね、ってことですね。
ひととおり読んで、久々に聖書を開く意欲も湧いてきました。宗教には興味が尽きません。しかし、いま興味があるのは新約より旧約聖書です。あの恐ろしい神と不可解な人間の行動、解釈も様々です。旧約を題材にした絵画も非常に多いので、著者の中野さんにはぜひ旧約版も書いていただきたいのですが、無理でしょうか・・・。旧約こそ、図解チャートみたいなものさえほとんど存在せず、困っております。